オースター『最後の物たちの国で』

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本書は、アメリカ文学の大御所ポール・オースターが、デビュー作の『孤独の発明』及び
ニューヨーク三部作(『ガラスの街』『幽霊たち』『鍵のかかった部屋』)につづいて発表した、
第五長編です。


一言でいうと、本作はディストピア小説です。

半年間消息の分からなくなった兄ウイリアムを追って、兄の赴任先の国へ向かったアンナから「あなた」へ宛てた手紙という形式をとっています。

その国は極限まで荒廃し、飛び降り自殺をした人の周りに人々が群がり、身ぐるみはがして明日の糧にするほどまでになっています。盗みや殺人がもはや犯罪ですらなくなり、人々は住む場所を失い、食物を求めてさまよいます。

崩壊し続ける世界ですべてがゼロに向かうなか、アンナは必死に生きます。

作者のオースターは、この作品では少し前の過去と現在を描いた、と語っています。

人肉処理工場など、一見してありえないように思われるものも、例えばドイツ軍によるレニングラード包囲下で実際に存在したのではないかと言われています。

そうした、かつてあったかもしれない、あるいは今現在もあるかもしれない現実を描きます。

ラストは、かすかな希望を感じさせるものになっています。


抜群に面白い本作、ぜひ手にとっていただきたいです。