CATEGORY

小説

『ドラム缶』

夜明け前に事務所に帰ってきた。これから日報を書かなきゃならない。トラックで建設残土を山に捨ててきたのだ。 世の中には適法にやっているところもあるのだが、コストを抑えたい建設会社などがうちのところに持っ […]

便器に吸い込まれた男の嘆き

便器に吸い込まれてしまった。 正確には、吸い込まれそうになった、と言いたいのだけれど、事実はそうではなかった。吸い込まれてしまったからである。 なぜというに吸い込まれる前に自分の身体がとても小さくなり […]

バス地獄

バス車内が地獄と化した。 順を追って話そう。 朝通勤のバスに乗り込むと、乗客はまだひとりもいなかった。この時間のバスは発車時刻よりも大分早めに来ているようだ。寒い中でもギリギリまで乗客を待たせる便もあ […]

終着駅

「妙に乗客の数がすくないな」そんなことを思ったのが最初だった。 各駅停車でひとりまたひとりと乗客が降りていく。気づけば、向こうの端の優先席に座る老人と私だけになっていた。 「おきなさい」 体を揺さぶら […]

港町の事務所にて

二月のある日、港町のとある事務所にやってきた。面接を受けるためである。 さかのぼること一か月。わたしは職安を訪れていた。最初、職安で渡された紹介状に記載の地図は乱雑に書きなぐられたもので、職安の担当者 […]

蹴りたいドア

夜11時少し前。オフィスは暗くしんとしていて、私は明日のプレゼンのパワポ資料を作るため残業していた。 最後の同僚が「お疲れ様です」と言って部屋を出たあと、資料作成の仕上げが終わり安堵したとたん、急に便 […]

壁の黒いしみ

はじめは気にもとめなかった。 蜘蛛かなにかの虫が部屋の壁に張りついていると思ったら、単なるしみだった。なんだろうと思うこともなく、その黒いしみを放っておいた。 それから数日がたち、ある朝なにか気がかり […]

ふしぎなおとしもの

町を歩いていると、おかしなものを見つけることがある。 ある時は、橋のたもとに一足のちいさな靴がきちんと揃えられて置かれていた。 またある時は、川(川幅は3~4メートルほど)に赤い布団が投げ捨てられてい […]