安部公房著『砂の女』

昔の日本小説には今のものとは異なる魅力があるのではないでしょうか。

安部公房著『砂の女』は1962年に新潮社より書きおろし長編として刊行され、二十もの外国語に翻訳された氏の代表的作品です。(なんと60年も前…)

昆虫採集を目的に砂丘にやってきた高校教師の男が、女が一人住む砂穴の家に閉じ込められ様々な脱出の試みを繰り返す物語。試みはことごとく失敗し、しだいに砂穴での生活に順応しはじめる男の姿を描くことで、市民社会で生きる人間存在の在り方や日常性の真相を深くえぐりとった作品です。

ここでちょっと私事を。
「安部公房のおすすめの本は何ですか」と、ある女性に訊かれて、とりあえず本書をあげたんですが、あまり気に入らなかったようでした。
その女性の親戚が「安部公房おもしろいよ」と言っていたため興味をもったようですが、向き不向きがあるのでしょうか。
妻も「安部公房はきらい」と言うし、父は「暗い」と一刀両断。
SF派の友人が短編をほめていたほかは、周りに好きな人がいない作家。
それが安部公房です。

日本国内よりも海外でのほうが評価が高いというのはやはり本当かもしれません。

しかし、加速度的に進むストーリーは悲劇性を帯びていて終盤まで一気に読ませるし、娯楽性が十二分にありながら純文学として完成されていて、すごい作品です。