壁の黒いしみ

はじめは気にもとめなかった。

蜘蛛かなにかの虫が部屋の壁に張りついていると思ったら、単なるしみだった。
なんだろうと思うこともなく、その黒いしみを放っておいた。

それから数日がたち、ある朝なにか気がかりな夢から目が覚めた。
まもなく全身がけだるくあちこちに痛みが走った。

ふと壁を見やると、例の黒いしみが大きくなっている。
いやな予感がした。

それからというもの身体の不調が日増しに悪くなってゆく。
それとともに壁のしみも徐々に大きくなっていった。
しみの形はスリランカに酷似している。
試しに測ってみたら、全長32ミリメートルであった。

体中の痛みが酷くなり、方々の病院を受診したが、結果はなしのつぶてだった。
原因不明の病とされたのだ。

原因はわたしには分かっていた。あの壁の黒いしみだ。

アルコール除菌やカビ取り剤など様々なもので消そうとしたが、ダメだった。
いったいこの黒いしみは何なのか。

ついにほとんど身体を動かせないほどまでになってしまい、仕事を辞めざるを得なく
なった。
わたしは身寄りのない独身者だ。知り合いもおらず、だれも見舞いに来るものなどいない。

ラジオが流れていた。ラジオを聴くことがわたしの楽しみだからだ。
薄れゆく意識のなかで、ぼんやりとラジオから流れてくるニュースが耳に入ってきた。
・・・スリランカ大統領が逃亡し、国が破産宣言を行いました。・・・

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