タブッキ『インド夜想曲』

『インド夜想曲』は、イタリアの作家アントニオ・タブッキの小説です。

1984年に出版され、その後映画化もされました。

著者のタブッキはポルトガル文学の教授でもあり、ポルトガルの詩人フェルナンド・ぺソアをイタリアに紹介した翻訳者としても知られています。

小説は、失踪した友人を探すためにあまり定かでない手がかりをもとにインドを旅する、といった旅行記のような体となっています。

全体は12の章に分かれ、それぞれが独立したエピソードのようにも読むことができ、それらを主人公の旅がつなげています。

インド各地で主人公が出会う世界は、スラム街の宿、息のつまる匂いのする病院、夜のバス停で出会ううつくしい目をした少年など、とても幻想的です。

そして旅の最後には、あっといわせられるというか、狐につままれたかのような、どんでん返しのような、あるいはそういうわけでもない結末が控えており、奇妙な読後感を残したまま小説はぷつりと終わります。それゆえに読者に再読を要求する部分もあります。解釈を読者にゆだねるタイプの小説といえます。

起伏のあるストーリーはありませんが、出てくる人物や情景はとても興味深く、インドの深層に触れたかのような錯覚をおぼえることもでき、他では味わえない「体験」をできます。

訳者の須賀敦子さんの文章がとてもうつくしく、魅了されてするすると読んでしまいました。

一風変わった、それでいて奥深さもなんとなく感じさせる小説です。