本書は、フランスの文筆家ミシェル・シュネーデルによる、カナダ人ピアニスト・
グレン・グールドの評伝でありグールド論です。
著者のシュネーデルは高級官吏でありかつ精神分析家なのですが、このグールド論
においては精神分析的なアプローチはとっていません。
著者は、グールドにまつわる様々なエピソードを交えながら、そのひとの本質に迫ろうとします。
グールドとは
グレン・グールドは20世紀のカナダ人ピアニスト。
トロントで生まれ育ち、幼くして音楽の才能を発揮、10代で地元のオーケストラと共演します。
瞬く間にスターとしての道を歩みますが、32歳になる年にコンサート活動から完全にドロップアウトしてしまいます。
以降、テレビやラジオの番組制作に携わるほかスタジオ録音のみに生きました。
舞台に上がることはついぞ無かったのです。
みどころ
グールドにはいろんな逸話が残されています。
椅子の高さを調節するのに30分も聴衆を待たせたとか、真夏だというのにコートを着て
手袋をはめてスタジオに現れたとか…
奇人変人と呼ばれても仕方がない側面はたしかにありました。
しかし、売れないチェロ奏者を支援したり、動物を可愛がるなど、心やさしい人物であった
ようです。
バッハ演奏においてひとつの画期的な金字塔を打ち立てたこと、現代音楽への深い傾倒と理解、分析をつくしきわめて理知的な演奏をしたことなど、グールドの特徴はさまざまです。
しかし、それだけでは汲みつくせないグールドの魅力や素晴らしさといったものがたしかに
あり、紛れもなく不世出の大天才でありました。
バーンスタインは、「グールドより美しいものを見たことがない」という言葉をのこしました。
エドワード・サイードやロラン・バルト、ジョルジョ・アガンベンなど、なぜか現代思想の
専門家からの人気が高いことも、このピアニストの特徴です。
何か人をして語らせたくなる、そんな不思議な魅力にあふれているのです。
本書も、そんなグールドに魅せられた一人の知識人による語りの1つといえるでしょう。