『じゅうぶん豊かで、貧しい社会:理念なき資本主義の末路』(ちくま学芸文庫)のご紹介

本書は、ケインズ研究の世界的権威であるロバート・スキデルスキーとその子であり哲学者のエドワード・スキデルスキーの親子による資本主義批判の書です。

人々を「貪欲」へと駆り立てる資本主義の在り方に疑問を呈し、必要を満たしたあとは際限なく富を追求するのではなく余暇を大切にすること、一体何のための富なのかを考えること、豊かな社会とは本当は何を意味するのかということを問うています。

本書は良い暮らしをするための以下の七つの基本的価値を掲げています。
「健康」「安定」「尊敬」「人格または自己の確立」「自然との調和」「友情」「余暇」
こうしたものを大切にするため、実現するための具体的な政策を提案しています。

道徳・倫理を扱う古今の哲学や思想を渉猟し、その歴史の積み重ねをこれ以上ないほどしっかりと提示してくれるため、たいへん納得させられます。

個人的に圧巻だと思ったのは第二章で、悪魔メフィストフェレスに魂を売り渡す取引をしてしまった現代資本主義社会のひどい様態が、古くはプラトンやアリストテレスから、アダム・スミス、ジョン・ロック、ゲーテ、マルクス、ケインズ、マルクーゼらを引用して鮮やかに描きつくされていました。

経済学というものが始まったころは現在のようにただ現状を分析・説明するだけのものでなく、あるべき倫理というものを基礎に築かれていたことや、幸福経済学やエコロジストの欺瞞について学ぶところがたくさんありました。

じゅうぶん豊かであるにもかかわらず貧しい社会に疑問を感じるすべての人におすすめです。